国内の山林を守り、活用するための新制度「森林経営管理制度」がスタート
「森林経営管理制度」という言葉をご存知でしょうか?この制度は2019年4月1日から施行された新しいシステムで、2018年5月25日に可決、成立した森林経営管理法という法律に基づいてスタートしたものです。
登山やハイキングなどで、自然の風景の一部としてよく見かける山林ですが、実はその管理体制には適切でない部分も多く発生していました。日本の国土の7割もの面積を占める山林は、大切な自然資源として適切な管理を必要としています。
そこで始まったのが、今回ご紹介する森林経営管理制度です。森林経営管理制度では、これまで森林所有者が自分自身や民間業者への委託で行っていた管理に加えて、市町村が仲介業者としてサポートを行います。
さらに、所有者が不明で放置されてしまっている森林についても、市町村が管理を行うことが、森林経営管理法の特徴です。今回は、そんな森林経営管理制度について詳しくご紹介します。
戦後に植えられた山林には十分に活用されていないものが多い
私たちが現在目にする国内の森林は、戦後や高度経済成長期に人の手によって植えられたものが多いです。植えられてから30年近くが経過した現在では、スギやヒノキなどの人工林が、木材として利用可能な大きさに育ってきました。産業に使用される木材の自給率を表す「木材自給率」は2017年に36.2%となり、過去30年間で最高となっています。
しかし、これらの育ってきた森林の中には、十分に活用されていないものも少なくありません。森林所有者が世代交代することによって管理体制が甘くなった山林や、林業の低迷が原因で植林されたまま伐採されずに放置されてしまう山林も多いです。また、所有者が不明な山林は管理が行き届かないまま年月が経ってしまっています。
林業では、植えた山林を育て、適度な大きさになった段階で伐採し、また植えて育てるというサイクルが適切に循環していること
山林を放置してしまうと土砂崩れなどの災害にもつながる
森林経営管理制度の狙いは、林業の活性化だけではありません。山林を適切に管理することは、土砂崩れなどの自然災害の防止にもつながっています。なぜ、山林の管理が土砂崩れの防止に有効なのでしょうか?このことは、山林が育っていくプロセスと関係があるのです。
山に植えられた樹木は、大きく育っていくにつれて、隣同士の木と枝葉が密接になっていきます。山林を適切に管理するには、この段階で木々の間にすき間を空ける「間伐(かんばつ)」という作業が大切です。枝葉が多くなりすぎてしまうと日光を遮ってしまい、地面に生えている草木が十分に育ちません。間伐をすれば、山林に適切な量の草木が生えます。
雨が降ったときに土砂が流れ出てしまわないように押さえているのは、地面に生えている草木の根の働きです。そのため、山林が間伐されずに草木が生えなくなってしまうと、土砂崩れのリスクが増えます。
そのため、森林を管理して草木が適度に生い茂った状態にすることは、災害の防止にもつながるのです。
そこで、山林の管理を市町村がサポートするための制度が始まった
所有者による管理が行き届いていない山林や、所有者が不明な山林の管理を市町村がサポートする森林経営管理制度では、山林を育て、伐採してまた植林するという循環をしっかり回すことが狙いです。
具体的には、まず森林所有者に対して市町村が意向を確認し、経営管理を委託するかどうかを決定します。森林所有者が希望する場合、市町村が仲介者となって林業経営者とつなぐことで、管理を適切に行うという仕組みが、森林経営管理制度の概要です。
また、山林が山の奥地にあって、伐採した木材の輸送費が掛かりすぎてしまうケースなど、林業経営に適さない森林もあります。こうした森林や、所有者が不明で放置されてしまっている森林は、市町村が直接管理して自然林として保存する対象です。
森林資源の適切な管理と林業の活発化が期待されている
森林経営管理制度によって、私たちの生活に欠かせない山林が適切に管理され、財産として守られていくことが期待されています。また、所有者の分散や世代交代によって低迷してしまっている林業を再度活発化させることも、森林経営管理法の狙いの1つです。
戦後に植えられた山林が適切に伐採され、建材や商品などに生まれ変わることで、樹木が吸収した二酸化炭素が固定されるため、環境面でもメリットがあります。さらに、伐採された場所に新たな木々が植えられれば、二酸化炭素量の削減にも有効です。
新たにスタートした森林経営管理制度は、国内の自然環境維持や林業の活発化など、多くの効果が期待されています。山林を所有されていない方も、この新しい制度の開始をきっかけに、山林の管理や林業の仕組みについてご興味を持っていただければ幸いです。