父の背中を追って一緒に山に入り、虫や動物を追いかけ草木をわけてキノコなんかを探したあのころの思い出は聞いている私もワクワクしてきます。
その頃のことは、今でもありありと思い出せるくらいに、父と一緒に山に入ることが井上さんは大好きだったそうです。 木を倒して、それをお金に変える。
そして切った後に木を植える。 そのころは、林業の仕事がなんなのかよくわからなかったけど、いつも父が言っていたことがあります。 「先に残すために、木を植えるんだ。」
「枝につく葉は太陽の方向によくつくんですよ。それに葉っぱがからんでいたりして、よく見極めて調整しないとですね。」
ただ切るわけではなく、自然と向き合うように微妙な調整を行いながらチェーンソーを細やかに扱わないといけない。
もちろん危険が伴う作業なのでひとつひとつの作業を慎重に、確実に—
「立ってるときは細く見えるんですけどね。」 その場で運びやすいように枝葉をおとし、一定の間隔で幹を切り落とし、木材市場と呼ばれる取引所へ持っていくと買い取ってくれて、競(せり)にかけられます。
そんなやりとりを伺っていると、ここがとてつもない山奥の田舎のできごとのように感じられてきます。 ですが、ここは都心から車で約2時間の東京都。 深い深い自然を抱える「東京都檜原村」です。
ここ一年くらいは、マイクロツーリズムなどで近場観光が注目され、都心からの観光客も増えてきてにわかに注目をあつめているといいます。
高尾山のように電車がケーブルカー駅に近いわけではなく、最寄りの五日市線終点の武蔵五日市駅までは車で30分と、奥多摩に負けず劣らず深い自然に触れられるのが檜原村観光の魅力のひとつ。 ちなみに、大島や小笠原島などの島嶼部をのぞくと東京都では唯一の「村」です。 猿やいのしし、鹿といった野生動物も数多く生息しています。
プロパンガスの会社だけではなかなか生活できなかったこともあり、こどものころに連れられていった林業をはじめたそうです。
「モヤモヤすることがあると森に入って木と向き合うんさ、そうするとモヤモヤしていたものが晴れてスッキリすんだよね。」
「妻の趣味がパンづくりだったから、ここをつくったんだよ。まぁ赤字なんだけどもね。」気恥ずかしさを隠すように少しぶっきらぼうに話す井上さん。
檜原村でお盆になると昔から食べられている酒粕饅頭の酵母をつかって発酵させているからかしっとり、もちもちとした食感と小麦のやわらかくほどよい甘味が噛むたびに口いっぱいに広がります。
取材の日は、平日だったのですがツーリングのバイカーをはじめ都内ナンバーの観光客が、このパンやピザを食べに後から後から訪れてきていました。
「川が見えて綺麗」「山からの陽が気持ちいいね。」といった声があがる小高いデッキテラスからは、眼下にさらさらと南秋川の澄み渡った流れに、山の木々の緑が映えていて都会では味わえないものがあります。
「向こうの林は、間伐を終えた後だから光が入ってるでしょ。あっちはこれからだね。」
一見すると木がなにもなく、無造作に開発されたように見えますが、都の事業で木の植え替えをしています。
「春になるとまだ若いけど、植えた桜も咲くよ。あと5年、10年もすると植えた木も伸びてえらい見違えるよ。」 そう言って山を見つめる井上さん。
きっとその目の先には、かつて父の背中をおって入ったあの山。桧原の自然の里山が広がっているのだと思います。
いろんな木や植物、草花が咲くように、井上さんが小さなころに連れられていったあのころが山にかえってくるように 井上さんのお父さんが言っていた「先に残すために、木を植えるんだ。」 その言葉は受け継がれています。
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