フロンティアジャパンのノベルティに用いる木”間伐材”を切ってくれているのは、林業を営む井上佳洋さん
こどもの頃に、父に連れられ森に入った思い出がいまでも林業を続ける理由の一つだと言います。
父の背中を追って一緒に山に入り、虫や動物を追いかけ草木をわけてキノコなんかを探したあのころの思い出は聞いている私もワクワクしてきます。
その頃のことは、今でもありありと思い出せるくらいに、父と一緒に山に入ることが井上さんは大好きだったそうです。
木を倒して、それをお金に変える。そして切った後に木を植える。
そのころは、林業の仕事がなんなのかよくわからなかったけど、いつも父が言っていたことがあります。
「先に残すために、木を植えるんだ。」
ザッ—–……
取材日の晴天を切り裂くように、木の枝葉が緑の航跡を靡かせて地面に倒れると、大きな音とともにその重みが足の裏から伝わってくるようでした。
「枝につく葉は太陽の方向によくつくんですよ。それに葉っぱがからんでいたりして、よく見極めて調整しないとですね。」
そう話してくれた作業員の方は、林業を始めて20年くらいだそうです。
20年の経験があっても、木の太さや長さ、生えている斜面や、風向き、いろんな要素が合わさるほどに難易度はあがり狙ったように完璧に倒すのは難しいといいます。
ただ切るわけではなく、自然と向き合うように微妙な調整を行いながらチェーンソーを細やかに扱わないといけない。もちろん危険が伴う作業なのでひとつひとつの作業を慎重に、確実に—
倒した木は、切り株にびっしりと年輪が刻まれていて60年は経っているといいます。
「立ってるときは細く見えるんですけどね。」
その場で運びやすいように枝葉をおとし、一定の間隔で幹を切り落とし、木材市場と呼ばれる取引所へ持っていくと買い取ってくれて、競(せり)にかけられます。
そんなやりとりを伺っていると、ここがとてつもない山奥の田舎のできごとのように感じられてきます。
ですが、ここは都心から車で約2時間の東京都。
深い深い自然を抱える「檜原村」です。
ここ一年くらいは、マイクロツーリズムなどで近場観光が注目され、都心からの観光客も増えてきてにわかに注目をあつめているといいます。
高尾山のように電車がケーブルカー駅に近いわけではなく、最寄りの五日市線終点の武蔵五日市駅までは車で30分と、奥多摩に負けず劣らず深い自然に触れられるのが檜原村観光の魅力のひとつ。
ちなみに、大島や小笠原島などの島嶼部をのぞくと東京都では唯一の「村」です。
猿やいのしし、鹿といった野生動物も数多く生息しています。
「さっき切った木があるのは、昔の人が植えてくれたおかげだからね。」
井上商店の井上佳洋さんは、檜原村で生まれ育ち、今では林業をはじめいろんな事業を行ってきました。
プロパンガスの会社だけではなかなか生活できなかったこともあり、こどものころに連れられていった林業をはじめたそうです。
「モヤモヤすることがあると森に入って木と向き合うんさ、そうするとモヤモヤしていたものが晴れてスッキリすんだよね。」
このカフェ小屋「たなごこころ」は、今から14年前に井上さんが林業で切った木が余り、処分するには忍びなくて、自ら切った木を集めて、加工までをして小屋を建てたといいます。
「妻の趣味がパンづくりだったから、ここをつくったんだよ。まぁ赤字なんだけどもね。」気恥ずかしさを隠すように少しぶっきらぼうに話す井上さん。

カフェの自慢は、奥様の手作りのパンや地元の食材を使ったピザ。
檜原村でお盆になると昔から食べられている酒粕饅頭の酵母をつかって発酵させているからかしっとり、もちもちとした食感と小麦のやわらかくほどよい甘味が噛むたびに口いっぱいに広がります。
取材の日は、平日だったのですがツーリングのバイカーをはじめ都内ナンバーの観光客が、このパンやピザを食べに後から後から訪れてきていました。
「川が見えて綺麗」「山からの陽が気持ちいいね。」といった声があがる小高いデッキテラスからは、眼下にさらさらと南秋川の澄み渡った流れに、山の木々の緑が映えていて都会では味わえないものがあります。
「向こうの林は、間伐を終えた後だから光が入ってるでしょ。あっちはこれからだね。」

カフェの向かいに一面広がる山も井上さんが手入れをして間伐を行っています。
一見すると木がなにもなく、無造作に開発されたように見えますが、都の事業で木の植え替えをしています。
「春になるとまだ若いけど、植えた桜も咲くよ。あと5年、10年もすると植えた木も伸びてえらい見違えるよ。」
そう言って山を見つめる井上さん。きっとその目の先には、かつて父の背中をおって入ったあの山。桧原の自然の里山が広がっているのだと思います。
いろんな木や植物、草花が咲くように、井上さんが小さなころに連れられていったあのころが山にかえってくるように
井上さんのお父さんが言っていた「先に残すために、木を植えるんだ。」
その言葉は受け継がれています。
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