
SDGsをはじめESG経営では脱炭素のTCFD、生物多様性のTNFDに、ここ数年ではワンネイチャーといった言葉も生まれてきています。
世界的に環境配慮が求められる昨今、当たり前のように目や耳にすることが多くなっていますが、企業に対し環境配慮が義務のように求められることは全くと言っていいほどなかった1934年に、日本野鳥の会様が設立されました。
「日本野鳥の会」と聞くと、テレビ番組などで多くの数をカウントする場面を思い浮かべる方もいるかもしれません。
日本野鳥の会様では、2024年の創立90周年の節目にあわせて、一定額を超える寄付をされた方々を顕彰するための木製什器をつくろうと検討され、弊社にご相談いただいたことがきっかけでこのご芳名板の製作へとつながりました。
背景にあったのは、寄付者への感謝をきちんと形にしたいという想いだけではありません。
日々活動する職員の皆様が、「誰に支えられてこの活動が続けられているのか」を改めて実感できるものにしたい、という強い意図がありました。
実際に完成した什器は、外部に向けた顕彰の役割に加え、社内で自然保護活動の土台を見つめ直すための存在にもなっています。
なぜ日本野鳥の会様がこの什器を製作されるに至ったのか、製作の中で、寄付者の方や団体内外にどのような反響があったのか、
インタビューでは、自然保護に携わる携わらないに関わらず、ノベルティやOEMなどをつくり配布する上で大事にしたい視点や学びがありました。
実際にどのように使っていただき、どんな声が上がっているのか、反響やお客様の声などを、公益財団法人日本野鳥の会 共生推進企画室室長 景山 誠様、共生推進企画室 共生推進企画グループ 吉倉 浩子様にお話を伺いました。
インタビュー
公益財団法人日本野鳥の会
共生推進企画室
室長 景山 誠様
吉倉 浩子様
寄付顕彰を「見える化」

「支えてくださっている方々への感謝を、内外に共有したい。」
日本野鳥の会様では、これまでも寄付後の御礼や活動報告などをはじめ、寄付をされた方へのフォローは丁寧に行ってこられました。
ただ年数がたつほど、以前から長く支えてくださってきた方々のお名前は、どうしても埋もれやすくなってしまいます。
90年以上、自然保護団体の老舗として活動を続けてこられたこともあって、過去に寄付をされた方々のお名前は、記録の中には残っていても日々の現場や業務の中で見えにくくなってしまうことを残念に感じてこられたといいます。
この状況が続いてしまうと、目に見えない問題として次の職員、次の世代へと、感謝の気持ちが受け継がれにくくなって、その意識が薄くなっていってしまうかもしれないという危機感に似た思いもあったそうです。
「寄付者の存在を見える形にしたい」
「長く支えてくださっている方々への感謝を、職員にも共有したい」
という、ご寄付をされた方々への感謝を、記録の中だけで終わらせたくないという想い。
今回の寄付者顕彰のご芳名板は、単なる展示物ではなく、先にもあげた、長く寄付を続けてくださっている方々の想い、変わることのない理念をはじめ、時代や社会に合わせた日々の地道な運営によって支えられていることを示せるように。
だからこそ、職員の皆様が日常の中で目に触れ、感じられる場所に設置できることが大切だったといいます。
そして、オフィスへ来訪された方にも寄付者への感謝を伝える場としても機能しつつ、職場内で「活動が誰に支えられているか」「どういう想いで運営をつづけているか」を忘れないための顕彰板、什器づくりへとつながっていくことになりました。
木製什器という形にたどり着くまで
寄付者を顕彰する方法は、何も木製什器だけではありません。実際に日本野鳥の会様でも、さまざまな方法を検討されたそうです。
たとえば、ナショナルトラストとして保有する野鳥保護区に何らかの記念碑的なものを設置する案なども考えられました。
アイディアとしては面白く、メディアやSNSなどで話題にはなりそうな反面、それでは限られた人しか見ることができません。
また、日常の中で、職員の皆様が目にすることのできる場所にあることが重要というところからも外れてしまいます。
ただ、こういったアイディアから、自然保護団体らしい見せ方、在り方も大切にしたい。という思いも明らかになってきました。
そうした検討を重ねる中で、「自然保護団体らしさには、こだわりたい」「寄付してくださった方々の想いを一本の木になぞらえ、ここにお名前が掲げられていない方々も含めた全ての皆さまのご支援で野鳥と自然が守られていることの象徴のような存在にしたい」というコンセプトで木製の顕彰板、そしてご芳名板へと絞られていったそうです。
飾りよりも、お名前を最優先にした設計
「最優先は、寄付者のお名前をきちんと掲示すること」
製作当初は、飾りのパネルを付けたり、鳥のモチーフを多く入れたりといった案もあったそうです。
けれども議論を重ねる中で、「やはり最優先すべきは、寄付者のお名前をきちんと、また出来るだけ多く掲示すること」だと整理されました。
結果として、デザインを盛り込みすぎるのではなく、お名前が主役になる構成へと落ち着いていきます。
この判断によって、ストレートに寄付者顕彰という目的がぶれず、見た人にも意味が伝わりやすい什器になっています。
私たちも、どうしてもものづくりやコンテンツ制作では、ついつい「あれも入れたい、これも表現したい」と情報が増えてしまいがちです。しかし、本当に伝えるべきものを適切に絞ることで、結果的に強いメッセージになることがあります。
今回の事例は、その好例といえそうです。
寄付は、思いの継承。
ご芳名板へとお名前を記載するため、日本野鳥の会様では、これまでの寄付者の方々へ一人ひとり丁寧に「お知らせレター」という形でご報告をされたそうです。
「連絡はつく方にはすべてお送りしよう」と送られたのは全体の写真だけでなく、”お名前はここです”と分かるように、それぞれの寄付者の方のお名前の掲載箇所を撮影してお送りしたとのことでした。
この対応には、記録を振り返りながら、ひとつひとつ確認し、写真や挨拶状を用意するなど、かなりの手間がかかったそうですが、その分大きな反響があったといいます。
「写真から木の香りが感じられるようで嬉しい。」
「父の仏壇に写真をお供えしました」
「亡くなった後も名前が残るのは、想いの生きた証になる」
このような声が寄せられ、想像以上に喜んでいただけたといいます。
そして、お話を通じてとても印象的だったのは、寄付される方の背景には「自然が好きだった家族の思いを引き継ぎたい」という気持ちが多くあることです。
自然が好きだった方の相続財産のご寄付をはじめ、ご遺言によるご寄付、ご自身が自然や野鳥に癒されてきたことへの感謝など、野鳥の会様への寄付の理由や込められた想いはさまざまです。
ただ、そこには共通して、自然を守りたいという静かな意思があります。
その思いを、単なる記録ではなく、目に見える形として残す今回の什器と、このご報告の対応で生まれたものは、寄付者と団体の関係をもう一度つなぎ直す機会にもなっているように思えました。
日本野鳥の会の企業会員様と、ネイチャーポジティブ
近年は、TCFDやTNFD、ネイチャーポジティブといった言葉が広がり、企業にとっても自然資本や生物多様性への配慮が重要になっています。
日本野鳥の会様でも、そうした流れの中で法人様からの関心が高まっている実感があるそうです。
もちろん、そういった取り組みで法人様からのご寄付があつまってくることはとてもありがたく、時代や社会が求めることとして対応を進めているといいます。
一方で、今回の木製什器で顕彰されている企業様の多くが、こうした言葉が一般化する前から支援を続けてこられているといいます。
「寄付されていることをPRしたり、発信したりも全然されない奥ゆかしい企業様が多くて、わたしたちからPRや発信をしませんか?と提案することもあるくらいなんです。」
多額のご寄付をされたり、毎年継続して支援される法人様もあれば、土地購入のために大きな額をご支援くださった法人様もあるとのことでした。
ただ、そうした法人の多くは、先のような派手な広報やプレスリリースを望まれないそうです。
むしろ、ほんとうに自然のためにと、静かに支えたいという姿勢の企業が多いといいます。
なぜ木製だったのか。ブナを選んだ理由

今回の什器づくりでは、樹種選びにもかなりこだわられたそうです。本体には、ナラの木を、銘文プレートはサクラ、そしてお名前を刻むプレートに選ばれたのはブナでした。
これらの木は、日本の里山や森の木であること、自然の風合いをもっとも活かしやすいと考えられたこと、そして寄付者や会員の方々の感性に合う、飾りすぎない佇まいが出せることが大きかったようです。
また、ブナの木に印字しますと報告されたなかで「ブナは好きな木だったのでうれしいです。」といった声も多くあったといいます。
自然の良さを出すために、木は塗装したり、ニスなどでコーティングしたりせず、できるだけ素材そのものを活かす方向になったといいます。
一本の木として、寄付者を表現するこだわり
この什器は一本の木をイメージして設計されています。
古くから支えてきた方々が土壌や幹のような存在となり、葉のように新たな寄付者が重なって、野鳥を見守っていくように。そんな想いが込められています。
自然保護団体らしさを、説明しすぎずに形で伝えることにかなりこだわりたかったといいます。
今回の製作は、最初から順調だったわけではありません。
扉の開き方、プレートの扱いやすさ、引っ越し時の運搬性、磁石の構造、素材の変化など、細かな検討が何度も必要だったそうです。
理想のイメージはあっても、実際に形にするには技術的な制約があります。
メールをはじめ画像イメージだけでは伝わりにくく、実物の素材を触りながら、対面でひとつひとつを「これはこうしたい。」「それなら、こうしましょう」と確認しながら進めたことで、一歩一歩確かめながら方向性が定まっていったとのことでした。
見た目だけではなく、使い勝手、保管、移動、運用まで含めて設計することが、長く使われる製作物には欠かせません。
企業の販促・サステナブル担当者が学べること
今回の日本野鳥の会様の事例は、自然保護団体ならではの取り組みに見えるかもしれません。ですが、今回のインタビューを通じて企業の販促担当者やサステナブル担当者にとっても、学べる点は多いと感じました。
支えてくれた人を「見える化」すると、意味づけが変わる
顧客、取引先、寄付者、会員、株主。企業や団体には、事業を支えてくれるさまざまな存在があります。
けれども、それを社内で日常的に感じられる仕組みは意外と少ないものです。
どうしても、企業が顧客や取引先との接点を求めるとなると、ノベルティはもちろん、メールマガジンやCRM施策として、それをするとどういう売り上げにつながる?といったことを起点に考えてしまいがちです。
支えてくれた人を目に見える形にすることで内部での意味づけも変わります。
単なる感謝の表明ではなく、組織文化をつくるきっかけという点で、非常に実務的な価値があるように思います。
サステナブルな姿勢は、静かでも伝わる
もう一つ印象的なのは、法人寄付の在り方です。
大きく発信しなくても、静かに支え続ける企業がある。そうした姿勢は、派手ではなくても確実に伝わります。
今の時代、サステナブルな取り組みは「やっていること」という事実だけでなく、「どう伝えるか」ナラティブなポイントも問われてきています。
今回の事例は、誇張せず、押しつけず、それでも十分に伝わる形があることを提示しているように思います。
サスティナブルコーポレートなどで、ESG関連の項目をまとめて発信することは大前提です。
ただ、それだけでなく、なぜサスティナブルな取り組みをするのか、企業の理念や創業の思いなどを踏まえて、サスティナブルな取り組みを振り返ったり、絡めてみるのもいいのかもしれません。
まとめ|寄付者顕彰什器は、感謝を組織内文化に変える装置になっていました
日本野鳥の会様の木製寄付者顕彰什器は、単なる芳名板ではありませんでした。
そこには、寄付者への感謝を目に見える形にしたいという想い、職員の皆様が日々その存在を感じられるようにしたいという意図があり、さらに自然保護団体らしさを木という素材で表現したいというこだわりがありました。
完成後には、寄付者から温かい反響があり、団体内でも「誰に支えられているのか」を改めて考えるきっかけになったそうです。
個人の寄付者だけでなく、奥ゆかしく自然のために支援する法人の存在が可視化されたことも、大きな意味を持っているように感じられます。
感謝をただ伝えるだけでなく、組織の中に残る形へ変えていく。そのヒントが、この事例には詰まっているように感じる、とても学びのあるインタビューでした。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。
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